桐野夏生「村野ミロ」シリーズ雑感

参照作品
「顔に降りかかる雨」
「天使に見捨てられた夜」
「ローズガーデン」
    

 
ここ数日、桐野夏生さんの小説を立て続けに読んでいるのだが、この人は何も信じてないんだなぁと改めて思う。
でもこの人の書く主人公は強い。
何も信じてないから強いのか、それとも私が見逃している何か強さの根拠があるのか?
もしくは何かを失うことを恐れてないのか?
多分幾度となく繰り返される、人間は一人なんだ。ってトコにヒントがある気がする。
一人でいること、孤独であることが怖くて人は家族や恋人を求め、社会に参加するのに、この人の書く主人公は自分は独りであることを堂々と主張する。
自分は一人であること孤独であることを常に自覚し続ける人間にとって、家族や恋人、会社なんてのは幻想でありいつかは醒めるものだ。
そういう人間が一人でもその中にいれば回りの人間にとっては脅威だと思う。
特にその幻想にどっぷり使ってその法則に過剰に従う人間にとっては。

でもその何も信じてない強さをもった女と幻想に過剰に適応した女*1が必ず対立してるかというとそうでもない。むしろ何も信じてない女は彼女たちを助けるため、敵をとるため*2戦う。
村野ミロシリーズってのはそういう話なのかなぁ?と思う。

村野ミロは別に名探偵ではない、特に鋭い推理をしたわけでもないし、仕事はすぐ断るし、別に正義感や使命感があるわけではない。
もっと言うと探偵としてやってはいけない失敗を特に「天使に見捨てられた夜」ではしている。
でもカッコイイ、いわゆるハードボイルドだからだろうか?
この強さには憧れる。

ただ彼女がはじめから強かったかというと違う気がする、彼女には夫を間接的に自殺に追い込んでしまった過去があり一回、家庭を作るのに失敗している。
その失敗から他者による救いを断念したから彼女は強いのか?
でもその失敗の前から彼女は自立心が強かった気がする。あえていうなら自分の資質を見誤ったのが彼女の結婚の失敗だ。

彼女はどうなるんだろうか?強すぎる人間、一人でも生きていける人間は他者を求めるのだろうか?
村野ミロは作中で何度も男性と関係を結ぶが、それはたいていその一時のもので後に破綻する。
唯一、義父村野善造との関係が彼女にとって大事な入れ替え不可能なつながりに見えるけど、彼は遠くから見守る、お師匠さんのようなものだ。

一人で生きることができる人間は強いけど悲しい、それが村野ミロシリーズで一番に感じる感想だ。

追記、一番新しい村野ミロシリーズで「ダーク」という本があるけど分厚いのでまだ未読で、読むとしてもグロテスクのあとになるかなぁ?と思う。

*1:そういう女描写はたいてい派手な格好した女むき出しの存在として描かれる

*2:この場合の敵がほとんど男なのだが