「ぼくらの」① 「鬼頭莫宏短編集 残暑」 作・鬼頭莫宏

鬼頭先生の本がなんと二冊同時刊行。
タイトルでもわかるとおり、私のくくりで言うトコの「僕」系の最先端を突っ走る作家で、よく知んないけどKANONとかAIRとかの「泣きギャルゲー」の世界観をよりマンガに持ち込めている作家なんだと思う。
でもそれと同時に見も蓋もないエロスも持ち込んでしまったのでイマイチ評論家筋には評判が悪いというか、お友達と思われたら、このご時世ヤバいって気持ちがみんなあったんだろうね。だから「なるたる」は問題作なんだけどあんまり語られない作品になったんだけど。
鬼頭作品の特徴として、見た目は健全な少年少女の話を演じながら、佳境に入った当たりで本音を出すというか、とてつもない痛いシーンを描いて、こっちを凹ますんだけど、どうもその痛さまでたどり着く普通の読者がいないのがこの人の損してるところかなぁと思う。
わかりやすく言うと
オタクで痛い話ダメな人→途中で読むのやめる
オタクで痛い話大好きな人→これは自分のための作品だと喜ぶ。
普通で痛い話ダメな人→一生読まないけどそれでいい。
普通で痛い話大好きな人→もったいないあなたの求めてたセカイはここにある
って感じです。
参考にしてください。
さてここからはちょっとネタバレします。


「ぼくらの」は鬼頭先生版の「ザ・ムーン」
ザ・ムーンってのはジョージ秋山先生原作のコクゴ・サンスウ・リカ〜って感じの名前の9人?の少年少女が巨大ロボットを操って悪と戦う話であれは確か全員の心が通じあわないとロボットが動かないって設定だったけど
コレは毎回一人一人操縦する力を与えられて、どこからともなく現れるエイリアン?とタイマンはる話。
途中まではよくあるオタク系アニメみたいな設定なので流して読めるんだけど
毎度の鬼頭節というか突然の不意打ちがあって凹みます。
多分この巻では明かされてないけどこのロボット(ジアース)を動かすには生贄が必要で毎回操縦者の命が必要なんだと思う。
確か台詞で「てめーらのマガジンが装填される」とあるけどマガジンってのは多分子供たちの命だ。
最初は14人も主要人物いて大丈夫か?と思ったけど、1回の戦闘が終わるごとに死ぬんだから大丈夫なんだろう。
罪深い作品だ。
最初は「なるたる」と較べていろいろ安定しすぎてつまんないかなぁと思ったけど、結構先が楽しみ。
ちょっと弱点をあげるとロボットのデザインがカブトガニみたいで、そこがムーンに較べると弱いなぁと思う。
エヴァの頃は新鮮だったけど今見るとホントよくある深夜アニメかよ!って思ってしまいます。

生命が地球上に氾濫する理由。
それはたくさん死んでも大丈夫_なためだ。
生命は使い捨てられるために続々と捨てられる。
「ぼくらの」一巻173ページより

この人の生命観というか死生観が特殊というか怖いなぁと思うのは、すぐとなりに死があるからなんですよね。大人も子供も関係なく登場人物すべてが死ぬかも?って思わせる。
それは短編の方でも同じで。
そしてこの作家はソレにエロスを感じてる。間違いなく。
例えば短編集「残暑」収録の「AとZ」で女の子が膝を怪我するシーンがあるんですけど、これがモーレツにエロいんですよ。
この短編集自体露骨なエロシーンはないんだけどエロいです。
特に「よごれたきれいな_」がエロい。
これはつげ義春先生の「紅い花」ですかね?多分。
何か内面に来るエロさだからイヤな人にはホント存在自体が性犯罪みたいなマンガなんだろうなぁ。この人の作品は。
ちょっとはた迷惑な才能です。
でも一方で「パパの歌」とか「ポチの居場所」とかいい話系も書いてるから、もしかしたらそっちの転ぶのかも。
まずこの2冊(無理なら短編集だけでも)購入して、面白かったら「なるたる」買って欲しいです

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