アメリカン・スプレンダ― 監督・脚本シャリ・スプレンダー・パーマン&ロバートプルチーニ


監督も夫婦だったんですね。どおりでいい塩梅だったなぁと納得。
内容はアメリカン・スプレンダーというアメコミの原作者・ハービー・パーカー
の自伝的物語。
であると同時にアメリカン・スプレンダー自体がハービー・パーカーの冴えない日常の漫画化
なのでそっちの映画化としても観れる。

物語はハロウィンのシーンから始まる。
お菓子をもらいに来た子供たちはそれぞれアメコミのヒーローのコスプレをしているが
一人だけコスプレをしてない子がいる。
「あなたは誰」
「ハービー・パーカー」
子供は自分の名前を答える。
困惑するおばさんに苛立ちその場から去るハービー少年
そして舞台は20数年後に飛びハゲて腹の出たおっさんになったハービーが
同じように辛気臭い街を歩いてる。

ここだけで結構捕まれました。
何かアメコミのマッチョヒーローの中に一人いる冴えないおっさんって絵だけで
グレート。
そしてその後のオープニングロールがハービーの漫画のコマ割と台詞を実写で模した
カットを繋げながらオフビートな停滞しすぎておかしくなっちゃってる感じで進んでく。
個人的には原作をちらっと見たんですけどうまく読めなかったんですけど、映画を見てやっとリズムがわかりましたね。
この映画は気持ちをアッパーにするためのカンフル剤じゃない。
ダウナーにダウナーを積み重ねていくことで見えてくるものを描こうとしているんだと思います。

例えば有名人の人が推薦文を寄せてたりするんですよね。
名前は出さないけど。
多分さ配給先がどうやって売りたいかっていったらさ

冴えないダメ中年が「このままじゃダメになる」と奮起し自分の人生を描いた漫画を自費出版
それを読んだコミックショップの女店員と再婚し二人の愛で新たなる人生を歩んでいく。
アメリカにはどんな人生にもチャンスがあるから諦めてはいけない。
これは人生の応援歌です
レッツ・ポジティブ

みたいな感じだと思うけど、筋はそうなんだけど内容は全然違うんですよ。
結論から言うと人生は苦しみの連続、一人の時も苦しいし有名になっても苦しいし奥さん居ても苦しいし、とにかく死ぬまで苦しいんだ。
って感じで、だけど
こっから重要ですよ。メモしてください。
だけど泣き言なんか言わないで
しかめっ面して睨みつけて愚痴と皮肉を言いながら生きていこう。
そういう趣旨だと思います、多分。

見てて思ったのは「24アワーパーティピープル」とかマイケルムーアの諸作品もそうだけど
こういう自伝的内容の成功の是非は出てくる人間のナマの面白さですよね。
普通のドラマや映画だと観ている一般の人が感情移入できる分身みたいなキャラが要求されるんだけど、そういう人がまったくいないのが気持ちいいです。
だいたいそんな奴に感情移入できたためしないし。

で、この作品に関して言えばもうハービーとジョイスのキャラが立ちまくってるのが素晴らしいですね。
まぁハービーに関しては結構前情報が出てて映画以外の部分でもフォローがあるから、わかるんだけど、この奥さんのクレイジー加減って素晴らしいですよホント。
サブカル腐女子の理想ですね(笑)

見る前はビッグ・フィッシュみたいな天才バカボンのパパとママみたいな関係を想像してたんですけど、両方おかしいってのはいいですね。
結婚してからの生活はわかるんだけど、前は離婚してるんですかね?
あと野菜が食べれないとかアレルギーとか鬱病とか出てくる登場人物にかったっぱしから分裂病とか誇大妄想とか病名をつけてく性格の悪さが最高です。
それとその説得力を抱かせる顔してるんですよね。この女優さんが(笑)

ブラピの奥さんがこの役やりたがってたとかいうけど
何考えてるんだ!って話ですよね。
ホント最近の美男美女の越権行為は目に余りますよ。
不細工って書いたらアレだけど面白フェイスの人には絶対ハンサムだったり美男美女の役はできないんだからあんたらはちゃんと美男美女をまっとうしろ。個性派に逃げるなって思います。

多分ジョイスの側にもハービーと似たような人生があったと思うんですよね。
いやもっとタチが悪いかも(笑)


何か甘くないんですよね。一般的な意味での幸せとは違う関係なんですよ。
もっと何ですか?戦友?
そんな感じがしていいです。
「しあわせになれないなら戦い続けるしかないのよ」って感じで
あとは後半のガンがわかってから子供を養子にもらう過程も好きだし
序盤のロバート・クラムとのやりとりもいいです。

ちょっと難点を言えば今の本人が登場して回想をしょっちゅう語るのが邪魔かなぁ
って思うことはあったけし、テレビに出ることでちょっとバランスがおかしくなる過程はもっと見たかったけど、そこを見せないのは、そもそも本人がスターになったっていう自覚がまったくなくて、いつも苛立ってたって気持ちの方が事実なんだろうな。
苦渋を舐めた人って薄っぺらいやさしさに敏感になりますからね。
あとでドンデン返しが来るって。
だからハービーがしかめっ面してるのはそういうことですよね。
さすがに2回離婚してりゃね(笑)

何ていうか、こういう戦い方ってあるんだよなぁって思わせてくれる作品ですね。
それは自伝的な映画例えばもうすぐ公開のスーパーサイズミーとか華氏911も含めてなんだろうけど。大作映画の美男美女のセレブは教えてくれないちょっとしたヒントをもらった気がします。