残酷な神が支配する①〜⑰ 萩尾望都

マンガ喫茶で一気読みしました。だからキャラ名とかは覚えてません。
あとネタバレしますので嫌な方は読み飛ばしてください。




内容は、主人公の男の子が母親と再婚した義理の父親に愛されてむりやり関係をもたされた後、このことを母親にバラされたくなければ関係を続けろと脅迫され、あの手この手で義父に犯される話で、それに家族の面々、義父の実の息子や叔母の息子やらが絡んで行く、一大家族ロマンって感じの話です。
つまりこの義父が「残酷な神」なんですよ。
構成としては6巻までが父親が主人公を虐待する話でそれ以降が主人公が殺してしまった父親と母親に関するトラウマを義父の側の息子が癒すためにアレやコレやと格闘する話です。
で、感想としては義父が死ぬまではとてつもなく面白いですが、死んだ後は正直読むのが苦しかったです。もっというと「トーマの心臓」を肉体関係をちゃんと書いて11巻に引き伸ばしてる感じがどうしてもしてしまい、早く読まなきゃなぁって思いながらひたすらページをめくってました。
だから物語としては失敗なのかなぁという気がどうしてもするんですけど、同時に90年代の話はこうならざる終えないよなぁと思いました。
ようするに6巻以降は父=神は死んだ=ポストモダンな世界なんですよね。
義父側の息子は父を尊敬していたのですが、6巻以降その強くてやさしいイメージがどんどん崩壊していきます。それと同時に家族も崩壊していき、義父の実の息子の方は主人公のトラウマを癒し更正させることに力を注いでいきます*1
気になるのはその癒すための手段にカウンセリングが使われるんですよね。よく病んでるマンガの主人公に「病院に行け!」って突っ込む人がいますけど、この作品は本当にカウンセリングを受けるんですよ。しかも長期にわたって、実は義父の虐待を受けてる時点で主人公は児童相談所みたいなトコに相談しているんですけど、これで解決したら物語*2は終わりですよね。
まぁどっちもあまり良い方に転ばないんですけど。

でも後半の展開は物語としてはつまらないけど思考としては面白いです。つまり神が死んでも神のいた時代の記憶は残っていてそれがトラウマになっている。だからそのトラウマを癒すためにある種の近代の産物である心理学が出てくるんだなぁと思いました。でもそれはあまりうまくいかないで結局息子が新しい神になるか、それとも?って展開で

>母性と同性愛

そしてこれは多分、萩尾望都のテーマなんだろうけど、最後に義父の虐待を母親が知ってたんではないか?義父の愛情をつなぎとめるため生贄として見ないふりをしていたのではないか?という問題が出てくるんですよ。
実はこの感じ個人的にわかるんですよ。別に私は虐待されてたわけではないのですが、わりと父親が強いワンマンの家庭で、結構母親を怒鳴ることがあったんですよね*3そういう時、母親はだまって受け入れて、あとで子供に愚痴を言ってきまして、何で直接言わないんだ、何でこの人は父親とコミュニケーションをとれないんだ?と疑問に思って、それをぶつけてしまったことも何度かありました。
ショックだったのは結婚して20年近くたつのに「お父さんは何考えてるかわからないから」と言われた時ですね。その時「結婚って何?」と本気で考えたりしました*4
萩尾さんは私の母親の世代になってしまうのでちょっと違うかもしれませんが強い父親に対する憎しみより、ひたすら父=家のため耐え忍ぶ弱い母への憎しみ*5、もっというと「あんたみたいにはなりたくない」という気持ちの方が強いのかもしれません。
そしてそれがフェミニズムの自立した女になろうという戦後の流れにつながるんだと思います。
この辺り大塚英志さんは「彼女たちの連合赤軍」で「イグアナの娘」で母性と無理やり和解したと書いていましてこの作品でも最後に精神で和解するんですけど、どうにもうまくいっていない気がします。
というかラストは結局ひきづりながら生きるしかないという方向であっさり終わってしまうんですけど、その意味でまだ葛藤は残ってるんだと思います。

あとどうしても触れざる終えないのは同性愛の問題なんだろうけど、萩尾望都さんの作品に限らず同性愛というモチーフは出ますけど、
正直、設定として便利
①女性にすると身近すぎて描けないけど少年ならフィルターが入ってかける。
②性関係をもつ時のドキドキが男女の時より壁が高く葛藤も大きくなる。
という面から使っている感じがしました。もしかしたらどうしても同性愛じゃなきゃいけない理由があるのかもしれないけど私にはよくわからないです。

正直言いますと、私は少女漫画もっというと女性の作家には女性の主人公を書いてほしいです。少年をだされるとちょっと逃げ入ってる気がするというか、逆にいうとそんだけ女性であることの抑圧が強いんだろうけど、一応書いとくと男性作家が少女を主役にするような話もしかりです*6
まぁそれをさし引いても90年代を代表する作品であることは確かだと思います。

*1:それにしても一人の人間の心を救うために10巻以上費やすんだからスゴイなぁと思います。地球を滅亡させるより一人の心を救うことがいかに困難なことかと思います

*2:特に少女漫画における悩み

*3:今はなくなりましたけど

*4:もしかしたら私は珍しい例で今の子は逆にちゃんと母親やれよと思ってるのかもしれませんが

*5:ちょっと表現がキツすぎる気がするので若干補足しますが憎しみというより悲しみとか哀れみとかそういう言い方の方が適切かも、多分ここは少女漫画のキモのような気がするんですけど、こういう存在はある意味、強い父よりタチが悪い気がします。強い父は戦えばいいんだけど、弱い母はどう接してたらいいのか、あぁ補足にならない(泣)その意味で弱さとどう対峙するかという問題はかなり困難です

*6:いや、こっちの方がタチが悪いかも社会的には抑圧がないんだから